―――恐ろしいカクテルがあるものだ。

 彼は、その酒を初めて飲んだときに、そう言った。
 どうやら、あの魅惑のカクテルが忘れられないようだ



 Sambuca con Mosca サンブーカ・コン・モスカ。



 あのハエに見立てたコーヒー豆が炎で風味を発揮する。
 これは旨い・・・!

 脳裏を悦楽のごとき思いに導く。
 オルフェウスのように、バッカスの信女たちの誘惑を拒む事が
 出来ないくらいに恍惚とした世界へと引き込まれる。

 イタリア産ハーブキュールのサンブーカをリキュールグラスに注ぎ、
 そこにポンポン焙煎済みのコーヒー豆を浮かべ、着火し炎を立てる。
 このコーヒー豆がモスカ（ハエ）のように見えるのでこの名前がついた。



 ローマが発祥のサンブーカとは、アニスシードやエルダー、リコリスなどの
 ハーブ類を中性アルコールに浸漬し、アロマを抽出して造られるリキュール。



 その夜の彼は、イタリア好きの女性二人と一緒に9匹のモスカと戯れて
 サンブーカとエスプレッソを愉しんでいた。

 チャオ！