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葡萄酒

◆独り言、雑感/◆CHAMPAGNE-WINE

 二階までの階段を、どれだけの時間を掛けて上ってきたのだろうか。
 その杖をついた老人はカウンター中央の丁度空いていた席にゆっくりと腰掛けた。

 湯気の立つおしぼりを受け取りながら

 「 葡萄酒 ・ ・ ・ 」

 と、低い声でひと言だけ呟くと店内は一瞬にして、それまでと違う空気に包まれた。
 静かに流れるサティのジムノペディ第1番が重苦しい。

 ぶどうしゅ ・ ・ ・???

 バーテンダーは、悩みに悩んだ末に深く紅い色の液体をグラスに注いだ。
 「 それは何? 」という先客の視線がバーテンダーの手元に突き刺さる。

 やがて老人は頷きながら、皺の無い紙幣を一枚カウンターに残して
 静かに帰っていった。


 老人の発した言葉は「 葡萄酒 」だけだった。

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053-450-5882
BAR ル・ランティエ
18:30-24:30/日曜日定休・祝日営業